室蘭市で起きた鉄鋼スラグによる土壌汚染問題。
昨年の10月、参議院環境委員会で行われた共産党 市田忠義議員の質疑応答によって、その実態の一部が明らかになった。今回はその内容について考えてみたい。
■ 鉄鋼スラグの事は知っていたはず。
質疑応答の中には3つの場所が出てくる。
① 消防署建設予定地(登別市)
新日鉄住金(当時の新日鐵室蘭)が低湿地に鉄鋼スラグを埋立し、1996年に登別市に売却、その土地を市が自主的に土壌調査したところ土壌環境基準を上回るフッ素が検出された。市は消防署建設を断念、土地は民間への売却を検討中。
「どうして市は購入前に土壌調査しないの・・?」
僕は単純にそう思うのだが、皆さんはいかがだろうか。もちろん登別市はこの土地に鉄鋼スラグが埋め立てられていることを知っていたはずだ。さらに、フッ素が出たこの土地、消防署はNGだけど民間はOKということ…?質疑応答だけでは分からない部分もあるとしても、ずさんな土地取得計画なのか、あるいは何がしかの意図が働いているか、そう考えてもおかしくはない。
② 旧東中学校跡地(室蘭市)
室蘭市の所有するこの土地をイオンに売却するにあたり、市が事前に自主的な土壌調査を実施した結果、土壌環境基準を上回るフッ素が検出され、地下に大量の鉄鋼スラグが埋土されていることが判明した。結局、市は鉄鋼スラグ除去費用(1億5千万円)を負担する形で売却。
「旧…、という事は、中学校があった、ということ…??」
正確な経緯は分からないが、この土地も新日鉄住金が鉄鋼スラグを埋土して造成、それを室蘭市が購入して東中学校を建設、その学校が廃校になり…、そんな事なのだろうか?それにしても1億5千万円、室蘭市は随分と財政に余裕がある自治体だ。
③ 八丁平(室蘭市)
1963~74年まで新日鉄住金が鉄鋼スラグの処分場として使用、170万tのダスト(鉄鋼スラグ?)が埋土された後に、室蘭市(もしくは新日鉄住金)が造成、1986年に区画整理されて、新日鉄住金社有地、室蘭市の市有地、公園、および民間住宅になった。最近の土壌調査で土壌環境基準の1400倍を超えるヒ素、23倍の鉛が検出された。
いずれにしても、新日鉄住金が鉄鋼スラグを埋土した土地を、市が無条件で購入し、その後の調査で土壌汚染が発覚した、という同じパターンだ。もちろん市は鉄鋼スラグの存在を事前に知っていて購入したのは明らかであり、厳しい目でこの事態を考察すれば、「後で何かあったら市で(つまり税金で)ナントカしますよ。」的な了解が、新日鉄住金と市の間に存在し、当然そこに、企業、行政、そして議会の癒着、つまり金銭等の利益供与があった可能性を疑わなければならない。
■ OK、OK、OK。
市田忠義議員の質疑応答には室蘭市議会のやりとりが出てくる。
「これは法成立以前に埋め立てたんで、だから適法なんだと盛んに言っているんですよ。」
… この人たちはいったい何を考えてるんだろう・・・?
ここ十数年、中国の工業化が進み、その結果発生した大気汚染等の環境汚染問題を、日本のマスコミが「これ見よがし」的に取り上げている。環境分野ではまだまだ日本がリードしてるよ、と言いたいのだろう。
確かに「目に見える部分」、大気や海、川などの汚染は明らかに少なくなった。しかし、どうだろう、「目に見えない部分」について、この国はまるで別人格のように無頓着ではないだろうか。見えなきゃOK、誰が捨てたか分からなければOK、何かあっても、誰かが何とかしてくれるからOK、じゃないと、会社がやっていけないんだよ…、そんな声が聞こえてきそうだ。
「健康被害が出てないからOK!」
一体、いつになったらこの発想から抜け出せるのだろう。
この国は過去に、有害物質によって深刻な健康被害(公害病)を発生させ、多くの人間の人生を毀損させたという経験がある。しかし残念ながら、そうした経験から「人として当然持ち得るであろう」反省や倫理観、そして危険感受性を獲得する事ができなかった。これは個人の感性の問題だ。
はたして、僕たち個人の感性は、現在手にした技術と同じレベルで発達したと言えるだろうか。「見えなきゃOK」「死ななきゃOK」のレベルで、他国の事を揶揄する資格はあるのだろうか。
さらに、そうした個人の感性を捨て去り、善悪を判断することを放棄して、「損得勘定」に乗じてしまう人間が、この国のスタンダードになっている。
室蘭市の市会議員たちが「適法だ」などと妄言を吐くのは、企業の味方になったほうが得だからだ。個人の内発性の源泉である重要な感性を完全にロストした、まさに「人間のクズ」だと僕は思う。
こうした人間に何の価値も見出すことはできない。
<③につづく>